漁師になる前に知ってほしい、漁師を支える相談窓口の話。

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掲載日:2026/02/18

漁業者の高齢化と担い手不足が深刻化するなか、現場の最前線で「次の漁師」を支える人たちがいる。
 高知県で漁師を目指す人の相談窓口となり、体験や研修、就業までをつなぐ「高知県漁業就業支援センター」。今回は、その最前線で働く二人の職員に話を聞いた。

高知県漁業就業支援センター 小松さん、大崎さん

小松さん

長崎県生まれ。祖父や親類が漁師という環境で育った小松さんは、前職で高知県室戸市の地域おこし協力隊として活動していた。地元の漁師たちと一緒に、地域の魅力を発信する仕事に関わるなかで、「漁業や水産に関わる仕事を続けたい」という思いが強くなったという。
現在はセンターで就業支援事業全般を担当。移住フェアでの相談対応をはじめ、漁業体験のマッチングや受け入れ先との調整など、就業希望者と現場をつなぐ“橋渡し役”を担っている。

 

小松さん

大﨑さん

高知を代表する観光名所「桂浜」の近くで生まれ育った大﨑さんは、幼い頃から太平洋を眺めながら成長してきた。そんな海のそばで、「高知で漁師を目指す人の力になれる仕事がしたい」と考え、現在の職に就いた。センターでは、ホームページやSNSの更新業務のほか、女性の就業希望者の相談対応やサポートも担当している。

大﨑さん

延長およそ700kmに及ぶ高知の海岸線には、多くの漁港が点在する。
水揚げされる魚種の豊富さに加え、カツオ一本釣り漁、サバ立縄漁、メジカひき縄漁、大型定置網漁、アマダイはえ縄漁、養殖業など、漁業のスタイルも実に多様だ。センターを訪れる相談者の多くは、まずこの「選択肢の多さ」に驚くという。


漁業への就業には「漁業会社などに就職する雇用型」と「自営で漁業を営む独立型」がある。高知県漁業就業支援センターでは、いずれの場合でも漁業就業を検討している人を対象に、漁業現場や漁村での暮らしを体験できる短期間の研修を実施している。さらに、独立型漁業を目指す人に対しては、漁業技術の習得を目的とした研修や、独立後の生活支援なども行っている。


相談から就業までの流れは、雇用型か独立型か、また目指す漁業の種類によって異なるが、基本的には「相談→漁業体験→研修→就業開始」というステップを踏む。


最初の相談で、特に大切にしていることについて小松さんはこう話す。
 「いいところだけでなく、厳しい面もきちんと伝えるようにしています。例えば、独立型は休日を自分で決められる自由さがある一方で、船に乗らない日は仕掛け作りなどの準備作業が必要です。すべてが自己責任で、天候や海の状況を読む力も求められます。なかなか一筋縄ではいきません。だからこそ、指導者のもとで学べる1年間の長期研修を用意しています」
 「自分自身が移住を経験しているので、実際の暮らしのリアルも伝えられます」


漁業の種類だけでなく、「どこで暮らすか」も重要なポイントだ。漁は日中に終わることが多く、仕事終わりの時間を趣味に使う人も少なくない。
高知には、サーフィン、パラグライダー、ラフティング、フィッシングなど、全国屈指のアウトドアフィールドがそろっている。例えば、サーフィンが趣味ならサーフポイントが点在する黒潮町ではえ縄漁に就業する、ダイビングが趣味ならエメラルドグリーンの海で知られる大月町で養殖業に就業するといった選択肢もある。


実際、小松さん自身も学生時代からサーフィンが趣味で、有名なサーフスポットがある高知県東部を最初の移住先に選んだという。


「どの漁法から始めればいいかわからない」という相談も多い。そんな場合は、複数の漁法を実際に体験してから決めることも可能だ。その一つひとつの調整役を担うのが、小松さんたちである。


移住相談フェアで小松さんが出会った関東在住の男性は、まさにそのケースだった。相談を重ねた末、男性は高知に数日間滞在し、定置網漁とカツオ漁船の両方を体験することに。
体験先の漁業者への連絡、宿泊先の手配、高知空港の送迎まで、小松さん自らハンドルを握った。到着したその日の夜には、男性は念願だったカツオ船に乗り込み、そのまま数日間の漁業体験へと出港した。


帰港後は再び車を走らせ、高知県最西端に位置する土佐清水市へ。ここでは定置網漁を体験した。男性のために小松さんが運転した距離は、合計でおよそ500km。「一人のためにここまで動き回ったのは、彼が初めてです」と、笑いながら振り返る。


体験を通して、男性は憧れていたカツオ漁船の厳しさを実感し、悩んだ末に土佐清水市の定置網漁の経営体へ就職することを決めた。
小松さんは今でも土佐清水を訪れるたび、彼の様子も見に行くという。地元の漁師から「本当によく頑張っている。地域にもすっかり溶け込んでいるよ」と聞いたときには、思わず胸が熱くなったそうだ。

 

小松さん2

「漁業は、実際に体験してみないと本当の姿はわかりません」
 途中で厳しさを感じて断念する人もいるが、それは就業後のミスマッチを防ぐことにもつながっている。


一方、大﨑さんも、仕事に就いてすぐに定置網漁を体験した経験を持つ。
 「船酔いがあまりにもつらくて、初日でギブアップしてしまいました。でも、夜明け前に出港して見た満天の星空や、自然のままの姿のクジラやマンボウに出会えたことは、今でも忘れられない、神秘的で非日常な体験です」と語る。


やってみなければ、わからない。
 移住経験者と高知出身者、それぞれの立場を持つ二人が、漁師を目指す人の「最初の一歩」を支えている。まずは体験から始めてみてほしい。移住や就業を前提としなくても、そこにはきっと、海と向き合う仕事ならではの特別な時間が待っている。

小松さんと大﨑さん



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